気体軸受は基本的に全て専用設計となります。

 支持する物体(動体)の重さおよび運転速度から使用可能な軸受を選択した後に、これを装置内に収納する方法、組立手順までを考える必要があるためです。

 また軸受隙間がマイクロメートルオーダーになるため、それ以下のオーダーでの加工精度が求められます。このような加工精度を実現するのは容易ではありません。少しでも加工しやすい形状を目指す必要があります。

 このように、気体軸受の設計は様々な要素を考慮しながら慎重に進める必要があります。

 参考までに一般的な特徴と選定手順を紹介いたします。

気体軸受とは

 軸受は大きく2種類に分類されます。ボールベアリングやローラーベアリングのように支持部と動体の間に転がる物体をはさむ『転がり軸受』と、支持部と動体の間には何もない、もしくは薄い流体の膜のみが存在する『滑り軸受』です。

 気体軸受は滑り軸受の種類の一つで、支持部と動体の間に気体が存在し、その気体の圧力で動体を支持するものの総称です。

 気体軸受の内、外部から高圧の気体を供給してその圧力で動体を浮上させるものを静圧気体軸受といいます。

 外部からの気体の供給を必要とせず、支持部と動体との相対運動で周囲の気体を巻き込み、その時発生した圧力で動体を浮上させるものは動圧気体軸受といいます。

なぜ『軸受と軸』と言わず『支持部と動体』なんて呼んでいるの?

エアホッケーのような、軸受らしからぬ気体軸受も結構あるからです。

でもさすがに面倒になったので、ここから先は『軸受と軸』と呼ぶことにします。

 

 気体軸受の特徴は以下の通りです。先に欠点から上げてみます。意外と欠点だらけです。

・気体が必要

 当然ですが、静圧気体軸受のみならず動圧気体軸受といえども気体軸受の一種なので、気体は必要です。宇宙空間では気軽には使えないでしょう。また、水や油の中でも使うことができません。それだけではなく、供給する気体の中の水分や油分も大問題です。高性能なフィルターでこれらを取り除く必要があります。

だから宇宙ではマグネットなんだね。

・剛性は低い

 気体の膜で浮いている状態なので、ふかふかしているのは仕方がありません。

剛性が低いことに加えて、粘性が低すぎて全然減衰しないのもやっかいです。

・重すぎるものを持つことはできない。

 動圧気体軸受はそもそも重いものを持つためのものではありません。

 静圧気体軸受ならば気体の圧力を上げればそれなりの重さを持ち上げることはできますが、限界はあります。

それなりの重さって、結局どのくらいの重さのものまで持てるの?

静圧気体軸受なら1円玉の面積で鉄アレイくらいの重さくらいが限界です。

ピラミッドの石くらいなら浮かせて一人で運べるかも。

(道が鏡のような平坦かつ水平ならばですけど)

・静圧気体軸受では自励振動を発生することがある。

 気体の粘性が低すぎるため減衰に期待することができず、設計を間違えると勝手に振動(自励振動)を始めます。

静圧軸受で自励振動が発生した時のブーンという音は恐怖です。

給気側の設計手法はほぼ確立されていますが、排気経路まで含めて一つの系なので難しい。

十分に広い排気経路を確保させてもらえれば楽なのですが・・・

一度や二度の失敗であきらめないで。

・高速回転では振れ回りを起こす

 無対策の気体軸受では、共振周波数の数倍の回転数で振れ回り振動が発生して、それ以上回転数を上げられなくなります。

対策ってどういうのがあるの?

明確にこれだっという対策はありません。

だからこそありとあらゆることが試されて、様々な気体軸受が提案されています。

その中から何とか使えそうなものを探るのが、気体軸受の設計の本質になります。

・傷(凸)に弱い

  滑り気体軸受の浮上量はごくわずかです。したがって、ちょっとした傷でも致命傷になります。

組立手順を間違えたら、軸(20万円)に傷をつけちゃった。

どうしよう、捨てるしかないかな?

まだ可能性はある!

凸傷には弱いけど、凹傷は意外と大丈夫だから、アルカンサス砥石で凸部を丁寧に削り落としましょう。

軸側ならこの方法で何とかなることも多いです。

軸受側に傷をつけた場合は曲面に砥石をあてることが難しいから、諦めて。

 続いて気体軸受の利点です。代表的な2点のみ上げます。欠点だらけの気体軸受ですが、この2点だけは転がり軸受ではどうやっても解決できないので、気体軸受に存在価値があります。

・超高速回転が可能。

 転がり軸受や油を使用した滑り軸受では焼き付いてしまうような、限界を超えた超高速回転に対応できるのは、気体軸受と磁気軸受しかありません。

・高い移動、回転精度

 ボールベアリングを回したときに発生する音、あれは振動です。転がり軸受ではどうしても精度に限界があります。ここもやはり、静圧気体軸受か磁気軸受に分があります。

気体軸受と磁気軸受が特別なのはわかったけど、

気体軸受と磁気軸受はどう使い分けるのがいいの?

コンプレッサーが設置場所の設備としてすでにあるという前提なら、気体軸受のほうが安価です。

一方、磁気軸受は、電気さえ供給すれば動くという手軽さがあります。

磁気軸受はそれなりに大きいので、設置スペースがあるかどうかも採用可否の基準になります。

あとは、工作機械のように激しく動く部分には気体軸受のほうがいいかもしれません。

ターボ分子ポンプのように、設置したらほとんど動かないものには磁気軸受が向いています。

静圧気体軸受か動圧気体軸受か

動体と軸受との相対速度がほぼ停止から低速・・・精密動作ステージなど

  外部から気体(空気)を供給可能

    ・・・静圧気体軸受

  外部から気体を供給することが不可能

    ・・・残念ながら気体軸受を採用することはできません。

       高い精度が必要な場合には、磁気軸受などを検討してください。

動体と軸受との相対速度が中速から超高速・・・スピンドルなど

  外部から気体(空気)を供給可能

    静圧気体軸受

    ジャッキアップ付き動圧気体軸受(基本的には動圧気体軸受ですが、起動停止時だけ静圧気体軸受でサポート)

  外部から気体を供給することが不可能

    動圧気体軸受(起動・停止時には動体が浮上しなくなるため、コーティングが必須です。)

なんだか静圧気体軸受が万能な気がするんですが。

それ、大体あってます。

外部から気体を供給することが容易なら静圧気体軸受が第一候補で、

難しいようなら動圧気体軸受の採用を検討しましょう。